三十話 OLになりたい?

近頃、憧れているスタイルがある。
OLのオネエチャンに。
誤解しないで戴きたいのだが、別にOLになりたい訳ではない。
彼女達が、昼飯時に財布一丁でうろついている姿をよく見かける。
今まであまり意識した事なかったけど、いつの頃からなのかなぁ。
身軽そうで、ちょっと羨ましい。
もし、自分が同じようにしてみたらどうだろう。
多少気味悪いが、想像してみた。
ブランド財布は、馬鹿っぽくて嫌だ。
ナイロン財布も、金が無いのがばれそうで怖い。
クロコダィルの財布だと、外見と中身のギャップが悲しい。
男が、人前に晒て持ち歩ける財布とは?
上質の革で作られた、全く無個性な財布が適当だろう。
あちこち探してみた。
全く無い。
そこで、財布の事ならこの人という東京の知人に相談してみる。
すると。
⎡なるほど。売り物じゃないですけど、僕の使っている財布がそうですよ。⎦
この人も、OLになりたかったのかなぁ?と思って、尋ねると。
⎡自分の名前や自社のブランド・ロゴが入った財布を、社長本人が持てないでしょう。⎦
そりゃ、そうですよねぇ。
小学生の名入れされた上履きになってしまう。
⎡良ければ、一個作りますよ。使ってみられたらいいじゃないですか。⎦
そして、こう付け加えられた。
⎡蔭山さん、銭は、居心地良くしてやった方がいいですよ。⎦
この人が言うんだから、そうなんだろう。
数日後、送って戴いた財布を手に取った。
外見上、何の細工もされていない、縫い目すら見えない。
しかし、素晴らしく計算された構造になっている。
内部の収納は言うまでもない。
嬉しいのは、持った時の感触である。
内側にも小さな蓋が仕込まれている。
内外2枚の蓋がクッションになって、持った時完璧に手に馴染む。
一切の仕事を、見えないように隠したプロフェッショナルの仕事。
この財布は、商品として考えてみるべきだろう。
だが、その前に、これで明日からOLになれるかも知れない。

どうも、ありがとうございました。

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