三十二話 カレー味の鏡餅?

嫁が、一週間ほど家を留守にすることになった。
家に帰ると、ダイニング・テーブルの上にA4の用紙が置いてある。
行動マニュアルが、書かれている。
そこには、防犯装置の解除方法から、喰いもの在処までを詳しく書き記してある。
よほどに、心配だったんだろう。
申し訳ない。
それしても細かいなぁ。
部屋に生けてある百合の花粉の処理まであるぞぉ。
マニュアルがないと生活出来ないというのも、この歳になって情けない。
だいたい、このマニュアルは、読み進むと、ほとんど命令書だ。
ここ十数年の間、他人に指図された覚えはない。
しかし、根拠のないプライドに拘っている場合でもない。
やらせて戴きます。
まず、洗濯、そして、掃除。
真夜中の家事は、調子よく進む。
って言うか、俺の方が向いてるんじゃないの?
さて、晩飯にするか。
冷凍庫の⎡三田屋ビーフ・カレー⎦を、指示どうり鍋で温める。
続いて、レンジで小分けに包まれている白飯を解凍する。
マニュアルには、⎡様子を見ながら解凍する事。⎦とある。
何の様子を、どうやって伺うんだろう?
まぁ、良い。
適当にセットしてスイッチを押す。
チーン、出来た。
大きな鏡餅が。
カレー味の鏡餅、他人が作ったものだったらブチ切れるところだ。
我慢して腹に納める。
冷凍飯の解凍時間について。
明日、料理屋にでも訊くか。
寝よ。

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