三十九話 毘沙門堂

日本人は、元来おおらかな宗教観を持つ。
宗教に端を発した争いが全く無かった訳ではないが、
数と規模において、他国より圧倒的に少なく小さい。
かなり古い例えで申し訳ないが、多くの日本人が口にした言葉がある。
⎡神様、仏様、稲尾様 ⎦
日本シリーズ、対巨人戦で西鉄を奇跡の逆転勝利に導いたのが、稲尾投手。
にしてもである。
神と仏と野球選手が同列に扱われる事に違和感はないのか?
お答えいたします。
ありません。
多くの日本人の信心とは、困った時にのみ芽生える身勝手な感情と言える。
僕もそうだ。
先日も、神様、仏様に担当して戴く事態が発生した。
どこに行こうかと考える。
京都の山科にいたので、近くで、昼飯が喰えて、経験豊富な先が良い。
この思考そのものが、罰当たりなのだが。
あった。
毘沙門堂。
山科の駅から車で一〇分少々。
山門の傍に、京都の老舗料亭が営んでいる蕎麦会席の店屋があるらしい。
寺伝によれば七〇三年に行基によって開かれたとあるので、千三百年以上の経験を誇る。
疎水に架かる橋を渡って、山道を進むと大きな山門に出会う。
侘びた山寺の風情で、なかなか良い。
本殿に向かってお参りしようと見上げると提灯と注連縄がある。
⎡あの~、こちらに居られるのは、神様ですか? それとも仏様ですか?⎦
どちらかによって、お参りの作法が異なる。
その程度の事情は、一応心得ている。
しかし、お寺側の正式解答は、⎡柏手を打っても良い。⎦⎡また、打たなくとも良い。⎦
さらに、お寺であって、お寺でない。
じゃぁ、一体何なんだ?
⎡まあまあ、入って、入って。⎦とご住職。
いや、飲み屋じゃないんだから。
ここ毘沙門堂は、代々続く門跡寺院である。
ということは、この住職もよんどころない血筋の方ということに?
まぁ、いずれにしても、拝む方も、迎える方も、かくの如きおおらかさである。
毘沙門天は、日本固有の解釈として七福神の一尊に数えられる。
他の六尊様にも、御願いの件、くれぐれも宜しくお伝え下さい。
勝手を申し上げますが、ここはひとつ皆様で御願いいたします。

合掌。

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