五十二話 冬支度

⎡馬鹿な事ばっかり言ってないで、ちょっとは営業的な話もしなさい。⎦
というご批判も戴くので、冬装束の話でもいたしますかねぇ。
この季節になるといつも迷う。
Down Jacketを、店頭に置かなくて大丈夫なのか?
僕、嫌いなんです。
チャーシューの塊みたいなあのアイテムが。
Down Vestは、さらに嫌だ。
お盆の精霊馬ってご存知ですか?
胡瓜や茄子に箸を挿して、馬や牛に見立てるっていうやつですけど。
太い胴体に、細い手足。
まだワイド・パンツなら許せるけど、スリム・パンツならまんまでしょう。
だが、囁かな言い分も虚しく、街場にはチャーシューと精霊馬が溢れる。
猫も杓子も鶏印っていうのも、如何なもんなんだろうね。
⎡じゃぁ、そこまで言うんだから、お前んとこは Down Item やらないんだよなぁ?⎦
と問われると、ちょっとやってみたりなんかするのが、服屋のいい加減なところでして。
ただし、チャーシューと精霊馬になんないように細心の注意を払います。
ひとつ目が、これ。
08 SIRCUS の Down Jacket です。
まず、前立、カフス、ポケット、襟などの仕様が Down Jacket ぽくない。
feather の量も絶妙で、全体の印象としてスリム感が維持されている。
四種類の異素材を巧みに配し、機能服にありがちなデザインの単調さも解消されてある。
生地、羽毛、金属部材に至るまで、完璧に厳選し採用されている。
驚いた事に、この Down Jacket は、製品染めで仕上げてあるらしい。
羽毛を入れたまま染めるなんて事、ほんとに可能なんだろうかと思った。
が、確かにこの異素材の染まり方と雰囲気は、製品染め特有のものである。
キャリアに裏打ちされたテクニック。
PARIS COLLECTION のランウェイを務めたデザイナーって、伊達じゃないよなぁ。
互いに話している時は、どうってことないけど。
こうやって創ったもの見せられると、森下公則というデザイナーの凄みが伝わってくる。
この一着、山男や冒険家を気取るなら話は別になりますけど、僕的にはお勧めですよ。
まぁ、こういった服屋の売り口上にでも耳を貸せる寒さになりつつあります。
冬支度に、ひとつ宜しくです。
あっ、値段云うの忘れてた。
税込みで、92,400円です。
馴れない営業話やるもんじゃねぇな。

Down Jacket もうひとつ御紹介したいのがあるんですけど、次にします。

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