六十六話 縁起物

新年明けましておめでとうございます。
今年もこの馬鹿ブログ宜しくです。

それでは年始めに縁起物の話でもさせていただきましょうか。
製作に口も手も一切出さないアイテムがある。
出さないというよりは出せない。
⎡財布⎦
糸や布や服ならいざ知らず、僕は革や財布については素人だ。
財布とは⎡財⎦を収める道具である。
人それぞれとはいえ、⎡財⎦は家族の命の次かその次くらいに大切なものだろう。
素人が、御客様の大事に係わるものを安易に商うことは憚られる。
また、この財布というアイテム、なりは小さいが恐ろしく厄介な構造をしている。
いい加減に拵えると言うなら別だが。
製作難易度としては、取扱うアイテムの範疇において最も高いといえるかもしれない。
とにかく難しい。
この財布製作に職業人としての全てを賭けておられる方がいる。
後藤惠一郎さん。
名品と謳われ、記録的な販売実績を誇る⎡HR01⎦という財布を考案された。
この⎡HR01⎦は、その構造において革命的ともいえる独自性をもつ。
後藤さんとは、長いお付合いで親しくもさせて戴いている。
昨年、個人的に我が儘なお願いをした。(詳しくは、三十話 OLになりたい?)
男が人眼に曝して持ち歩ける財布が欲しい。
全ての仕事を内包し、削げるだけ削いだ外観をもつ財布を。
お創り戴いた財布は四ヶ月間僕の傍にいる。
今も目の前にいる。
財布としての使い勝手については、僕なんかが評する余地などあろうはずがない。
敢えて伝えるべき点があるとすれば。
⎡触り飽きない心地良さ⎦とも言うべき生理的魅力がこのモノにはある。
外から触っている人が良いんだから、内に居る⎡財⎦はもっと居心地良いんだろう。
上から目線で恐縮ではあるが、⎡餅は餅屋⎦と妙に納得させられる。
この財布なら、御客様にお使いいただけるんじゃないかと思った。
しかし、やるとなれば詳細を知り検討すべき事もある。
⎡いやぁ~、ちょっと使ってみたら勝手が良かったんで、おひとつ如何ですかぁ⎦では、
⎡お前は馬鹿か⎦の一言で終わる。
Musée du Dragon の顧客様は厄介な人が多い。
まぁ、喰わして貰ってんだから文句は言えないけど。
後藤さんに縋る。
⎡すぐ伺います⎦
暮の大阪。
後藤さん、工房を差配する中川氏、売りを仕切る坂本氏、広報を担う東条氏。
全ての幹部がホテルの一室に顔を揃える。
素人の馬鹿相手に朝方まで向き合って戴いた。
あらゆる角度からレクチャーを受ける。
終わってホテル玄関で見送られたのは、翌朝五時。
訊けば前日も仕事で徹夜だったという。
二日間一睡もしていない、幹部は皆若いが顔にはさすがに疲れが滲んでいる。
目だけは、しっかり前を見据えて。
名品が産まれ世に出る時、何時だってこういう顔ぶれが在る。
三十年間、この稼業にあって幾度も経験した。
良い景色だねぇ、何度観ても。
⎡山⎦は動く。
ちょっと大袈裟かなぁ。
まぁ、正月だから。
財布の内容は、三日の初売りで御紹介させて戴きます。

今年も Musée du Dragon をご愛顧賜りますようお願い申し上げます。
お手柔らかにね。

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