六十九話 神賑わい

⎡商売繁盛笹もってこい⎦
⎡ えべっさん ⎦の掛声高く鐘や太鼓の囃子も賑やかに。
一月一〇日、浪速の喧噪にいる。
年明けから、“ KUJIRA ” が恵比寿神だとか、財布の縁起がどうのとか言った。
散々言った挙句、⎡ 十日戎 ⎦に参りませんでしたでは済まない。
しかも、由緒正しき⎡ 堀川戎神社 ⎦は SHOPの目と鼻の近さに在る。
千四百年以上前に、蛭子大神を主神に祀られたお宮である。
ミナミの今宮、キタの堀川と並び称され、大阪商人の拠り所として慕われている。
⎡ 十日戎 ⎦もそうだが、この国の神事はまことに大らかで良い。
神と人が一緒になって賑わう祭礼として受け継がれてきた。
⎡ 神賑わい ⎦と呼ばれる。
だから、酒も肴も芸も女も何でも有りとなる。
その昔は賭場も開帳されたと聴く。
酒や肴は近隣の飲食店に加えて立並ぶ露店によって供される。
参道に連なる店舗と露店の軒が重なっても気にしない。
芸は、上方芸能の雄⎡ 桂一門 ⎦と氏子が総出で奉ずる。
女はというと。
これが巫女かというとそうではない。
⎡ ミス福娘コンテスト ⎦何やら俗っぽい選考によってその年の福娘が選ばれる。
浪速娘にとっては、たいそうな誉れで、商家への良縁は約束されたようなものとなる。
写真を見た SHOPの女性スタッフが。
⎡正直、わたしやれるかも⎦
いやいや、そういう話じゃないだろう。
この娘達は、神様目線で選ばれた福々しい有難い方達なんだから。
下手に競うんじゃないよ。
お参りを終え、参道の両脇を眺めながら店へと戻る。
⎡ 太融寺 ⎦を過ぎ⎡ お初天神 ⎦にさしかかる。
普段は気にも止めないが、ビルが群れるこの界隈も神や仏の掌の内にあるのだと想う。
歩いたせいか小腹がすいた。
なんとなく浪速気分に浸りたいので⎡ 阿み彦 ⎦に寄って名物でもつまもうかな。
明治九年から商う小さな門前の名店である。
⎡親爺生きてるかなぁ⎦
暖簾を潜ると八畳ほどの店に亭主が居る。
しぶとく元気そうにやっている。
蒸してフライパンで焼いた焼売八個、ワンタンスープに焼売白湯スープ。
妙な取り合わせだが、これこそが “ 食通の文豪 ” 池波正太郎先生が愛された浪速の味だ。
焼売でというより、汁気でお腹がチャプチャプ。
⎡晩飯喰えねぇなぁ⎦
さて、蛭子大神に何をお願いしたかというと。
お賽銭チャリ~ン、ペコペコ、パンパン、そしてまたペコペコ。

御名前勝手に拝借させて戴きましたけど、“ KUJIRA 財布 ” 何卒宜しくです。

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