七十一話 ナポリ食堂

日本の皆さん、ボンジョ~ルノ。
“ Ma nun me lassà, Nun darme stu turmiento! ”
曇天に束の間に覗くナポリの晴れ間。
そして、Canzone が冬のナポリ湾に響く。
んでもって、彼方に望む島影が⎡淡路島⎦
ごめんなさい、此処は明石です。
一月十四日は、義父の祥月命日にあたる。
明石にある曹同宗の古刹に供養のため伺う。
生前、陽気なキャプテンだった義父に倣って下らない冗談をかましてみた。
よくしたもので、仏になって世話になるご住職もこれまた陽気な導師さまである。
有難い⎡南無釈迦牟尼仏⎦の教えをいただいた後の話。
⎡あんたの冗談面白くないけど、ナポリ・ピザ喰いたいなぁ⎦
⎡ CIRO 無理かなぁ? 食べたいけど今日も駄目かなぁ?⎦
しつこく嫁がせがむ。
⎡じゃぁ、駄目もとで行ってみる?⎦
波止場に面した旧いマンションの二階にイタリア料理店 ⎡ CHIRO ⎦ は在る。
およそ他所者が来る場所ではない。
が、今回で五回目になる。
前の四回は全て満席と断られた。
前日の電話予約も試みたが、これも駄目。
⎡わたし車に居るから、あんた一人でGOしておいで⎦
翻訳すると。
⎡首輪外してあげるから、軽る〜く吠えといで。でも、噛みついたら駄目だよ。後が面倒だから⎦
午前十一時、開店支度中のスタッフに訊く。
⎡昼飯喰える?⎦
⎡すいません、本日満席でして⎦
⎡あのなぁ兄さん、俺、その台詞聞くのこれで五回目なんだよ⎦
⎡いい加減、そろそろ喰わしてくんねぇかなぁ⎦
⎡ちょ、ちょっとオーナーに訊ねてきます⎦
オーナーの顔が調理場から覗く。
⎡え~と、何が召し上がりたいんですか?⎦
⎡ピザだよ、ピザ⎦
⎡席はどうしてもご用意できませんけど、お持ち帰り戴けるようにご用意いたします⎦
⎡釜から出ましたら、すぐ携帯の方にお電話いたしますから⎦
⎡え~、悪い事言っちゃったかなぁ、忙しそうだけど大丈夫なのぉ?⎦
⎡まぁ、とにかくどっか外でお待ち下さい⎦
⎡じゃぁ、前菜も何か見繕ってくれる?⎦
⎡はいはい、もう何でもしますから、どうぞどちらかへ⎦
Antipasto Mist は、茄子、豆、ピーマン、伊産フンギ等野菜を中心に五種類。
ピザの一枚目は、Quattro Fromage。
モッツァレラ、ゴルゴンゾーラ、クリーム、パルメジャーノ・レジャーノが載せられる。
もう一枚は、CHIRO特製にした。
ムール貝に明石名物の蛸などの海鮮をトマトで仕上げた海辺の食堂ならではのピザ。
車で十五分程度、焼き上がったピザを抱いて海際の二号線を家へと急ぐ。
前菜からという常識ももどかしく、いきなりピザに食いつく。
本場ナポリの評判 “ PIZZERIA ” も何軒か訪れた。
その上で言わせて戴いたとしても。
⎡CHIRO のピザは、僕の人生において食した中で一番旨い⎦
生地具合、塩加減、具材鮮度と質のどれをとっても今までで一番だ。
僕の中では、“ 一番の凄腕 Pizzaiuolo ”
東京から訪れる人もいるんだって。
噂は伊達じゃねぇな。
CHIRO の Pizzaiuolo ( ピザ職人 )としての師匠が、数駅西にある“ 赤穂 ”にいると訊く。
まだ上がいるのかぁ?
もうナポリなんて行くことねぇじゃん。

ほんとに美味しかったですよ、また行くからね。チャオ~

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