八十三話  LINIEREの魅力

“ Woven Moonlight ”
⎡月光で織られた生地⎦とは、亜麻布を意味する。
古代エジプト人の情緒から生まれた言葉なのだが。
クレオパトラの火照った身体を包んだのも、基督の遺体を包んだ聖骸布も亜麻布だった。
亜麻布、またはリンネルは文明の発祥と共にあった人類最古の布である。
亜麻はエジプトから欧州に渡り、フランス北部、ベルギー等が主要栽培地となっている。
一方で、綿花栽培はメキシコで発祥し、米栽培綿の原種となり全品種の九十%を占める。
だからという訳ではないが。
リンネルは欧州的で、コットンは米国的な印象が僕の中ではある。
で、この Marine Parka なんだけど。
同じ色で、同じ仕様で、素材が綿のキャンパス地で仕立てられていたらどうだろう?
American Work Wear 感が漂うんじゃないかなぁ。
Hickory の Overall に、Engineers Cap 被って、Work Boots 履いて。
⎡親方、配管の具合どうでっか?⎦的な。
それはそれで良いんだけど、もうMarine Parka と言えるかどうかすら怪しい。
そういう視点で見てみると。
上質のリンネルで仕立てられた服は、極めて欧州的な一着となる。
少しくたびれた同じリンネルの Trouser と真っ白な Shirts を合わせて。
剥げた頭に Panamá Hat のせて、髭面に鼈甲眼鏡を掛けた奴。
八月に、南仏辺りの海岸へ行くと居るんですよ。
そういう人生舐めきったような爺が。
若い時分散々悪どい事して、爺になって若いオネェチャンとバカンスみたいな。
すいません、あんたらの人生よく知んないけど。
でも、多分そんなとこだろう。
しかも腹立たしい事に、溜め息が出るほどカッコ良い。
コットンとリンネル、米国的と欧州的、どちらが良いという話ではないが。
素材の選定によって、真逆の印象を与える事が服の世界にはある。
リンネルが素材として持つ、古典的な風情と、特有のよれ具合、下方向への重量感。
もちろんデザインや仕立ての良さもあるが。
この服に限っては、やっぱりリンネルだな。
そして、リンネルは革との相性も良い。
正面中央にがっつり配されたヌメ革の留め具。
さすがに見せ場は、外さないよねぇ。

08 sircus 森下公則氏 の Liniere Marine Parka です。

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