九十三話 Vlas Blomme

あら~、ラックス君、どうしちゃったのぉ?
喰い過ぎじゃないの?
でっかい図体に、プチなおちんちん付けちゃって。
しょうがねぇなぁ。
ミニチュア・プードルって、どこら辺がミニチュアなんだか。
でも、彼が大好きだ。
体型的にも、性格的にも、身近かに思えて他人という気がしない。
抱かえている方は、桜間さんとおっしゃる。
名前どうりの綺麗な方で、Vlas Blomme のデザイナーを務められている。
いつもは、パリの空港でお目にかかるのだが。
今日は、碑文谷にあるアトリエでお会いした。
Vlas Blomme というブランドは少し変わった背景をもつ。
ものづくりに於いて素材の産地と深く係わっている。
産地は、Kortrijk に所在する。
首都ブリュッセルから西に七十キロ、フランダース地方の小都市。
紀元前より麻の生育地域であり、欧州産高級亜麻の産地として知られる。
コルトレイク産の亜麻糸を年間通じて使用し、ひとつのブランドを構築するという。
僕は、綿紡績出身なので、麻に関しては詳しくないのだが。
最初パリで、スライバー状態の亜麻を見せて戴いた際にその細さに驚いた。
このスライバーを糸にし、織ったり編んだりするのは至難の技だろうな。
意気込みは理解出来るが、コスト的にも技術的にも難しいような気がした。
それから数年経って、テキスタイルのバリエーションも増え色数も豊富になった。
もちろん、全てのアイテムにコルトレイク産の亜麻を使っての話だ。
自身も Vlas Blamme 製のものを愛用している。
特に、T-シャツとかシャツといった肌に近いアイテムが多い。
亜麻は、綿と異なり不思議な性格をした繊維であると改めて知った。
着れば着るほど、洗えば洗うほど、フッカフッカになる。
亜麻は丈夫な繊維なのだが、数年間無茶に着続けるとさすがに縫目が裂けることがある。
そこでヴィンテージの亜麻布を当てて繕い、庭での作業着とする。
さらに服としての型が崩れてくると、パジャマに仕立て直す。
最後は、手拭として寿命を全うするみたいな。
さすがに、手拭まではやったことないけど。
Vlas Blomme を見ていると、⎡今どきではない服との関わり方⎦を考えさせられる。
Fast Fashion とは対極にある⎡服⎦本来のあるべき様とでもいうのかなぁ。
まぁ、ある意味で⎡新しくも賢くもあるブランド⎦ですよ。
そんな事を考えていると、もうひとりの住人がやって来た。

リンちゃんだ。
彼女は、牝で、トイ・プードルで、真っ黒で、しっかり者である。
ひとりで留守番も出来るし、他所の家で御泊まりも平気だ。
先のラックス君は、そうはいかない。
主人の桜間さんが海外出張中は大変らしい。
遠吠えが止まらない、たまに止まると⎡うぇ~⎦と吐く。
挙句に神経性の胃潰瘍と診断される。
悲しいくらい情けない性だ。
そんなもんですよ、男は、雄は。
かまって貰ってなんぼの者だ。

女は度胸、男は愛嬌って、昔から言うでしょ?

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