三百六十二話 風を感じられる服?

既存のものとは異なるなにかを創造するには、それなりの才に恵まれなければならない。
この才ばかりは、努力して身につけるというものではなくて。
生まれながらに、あたりまえのように備わっている。
天賦の才とはそうしたものなのだろうと思う。
今後、投資したい世界の新進クリエーターのひとりに数えられる日本人がいる。
TAAKK デザイナー 森川拓郎君。
ISSEY MIYAKE MEN で経験を重ねた後に独立し、自身のブランドを立ち上げた。
彼の創る服には、近未来的なある種の美学が貫かれている。
少し判りづらい表現かもしれないが。
工業的手法を駆使しながら、工芸的な装飾効果をもった製品へと仕上げていく。
二◯一五年春夏コレクションで、注目すべき製品を見つけた。
スーピマ綿とポリエステル・タフタをボンディング加工で圧着させる。
これ自体は、世の中にあるコート製作によく用いられる手法で珍しくはない。
だが、その後にパンチング加工で無数の穴を空け、ある意味メッシュ状態にする。
まったくもって発想が逆転してしまっている。
そもそもボンディング加工とは、風雨を遮る機能を布地に付加するためのものではなかったのか?
その加工を、穴を空けたいがための布地補強といった用途に用いるとは。
そして、陽の下で羽織ると、光が服を透過して不思議な揺らいだ表情を見せる。
これもまた狙いなのか?
森川拓郎というひとの仕事は、なかなかに興味深い。
大方のデザイナーは、装飾というと工芸的な手法を駆使して表現しようとするものだが。
このひとは、すこし違っている。
もっと硬質な工業的手法を、異なった視点で用いることによって想定外の効果を狙う。
こうして彼の製作した服を眺めていると。
偉大な日本人デザイナーである三宅一生先生の血統を正当に引継いでいるのかもしれないと思う。
TAAKK デザイナー 森川拓郎君曰く。

“ 風を感じられる服 ” です。

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