百一話 SHERLOCK HOLMES

“ Time Machine ”
餓鬼臭い問いかけですが、もし時空を越えて旅するとしたら何処へ行きますか?
僕の向かう先は端から決まっている。
深い霧にガス灯と登場まもない電灯の灯が交錯しながら滲む。
汚物と埃まみれの石畳を馬車と無頭立ての自動車が行交う。
流行の衣装で飾った富裕の民とボロを纏った貧民が混ざり合って街に溢れる。
植民地政策による移民流入のせいで、魔都は人種のるつぼと化した。
産業革命直後の倫敦。
新と旧、貧と富、光と闇、絶望と希望、優越と劣等、成熟と退廃。
矛盾が支配し秩序が定まらない。
人類史上最初の大量殺戮を予感させる不穏な気配が欧州全土を覆いはじめる。
一方海峡を渡った向いの国では、誰もがBelle Époque (良き時代 )と回想する至福の時を迎えていた。
首都巴里は、不道徳な絢爛に興じている。
滅茶苦茶で混沌とした世界。
そんな十九世紀末ヴィクトリア朝時代。
海峡で隔てられたふたつの国で僕のヒーローが産声をあげる。
Sherlock Holmes と Arsène Lupin
探偵は、Sir Arthur Conan Doyle が、怪盗は、Maurice Leblanc が産みの親である。
倫敦の 221B Baker Street、大西洋岸の村 Étretat など所縁の地にも出向いてきた。
どちらかというと猟奇色の濃い探偵派だから Sherlockian かもしれない。
自称だけど。
先日、一本の作品が劇場公開された。
“ SHERLOCK HOLMES A Game of Shadow ”
二〇〇九年公開 “ SHERLOCK HOLMES ”の続編である。
メガホンを握ったのは、前作に続いて Guy Ritchie 監督。
さすがにマドンナ、男を見る目は確かだよなぁ。
元旦那のこの地味なオッサン、間違いなく天才ですよ。
Holmes は薬物依存症だったんだけど、その辺りの造詣も深くていらっしゃる。
ヴィクトリア朝後期の美術、衣装も病的に考証されている。
特に衣装、担当したのは Jenny Beavan 英国人でアカデミー賞の常連である。
十九世紀末流行のバルマカーン・コート、ハウンドツゥースの紡毛ジャケットに始まり、
ネイビーのベルベットで仕立てられたチェスター・コートまで一分の隙もない仕上がり。
全編、全てのアイテムにわたって服飾バイブルといえる域だ。
主役である Holmes 役の Robert Downey Jr. はもちろんの事。
Dr.Watson 役の Jude Law を筆頭に脇のキャスティングも最高。
もう僕にとっては劇場というより Time Machine にのっかった気分だ。
十九世紀末の倫敦、巴里、もうスクリーンの中に住まいたいくらいだ。
僕のまわりには、同じような世紀末愛好家が多くいる。
そこで、こんなものが創り出されたりする。
Edward Skull Ring と Edward Studs Bracelet なんだけど。
“ Edward Albert Christian George Andrew Patrick David Windsor ”
英国王エドワード八世のフル・ネーム。
この長い名前で悩まれた頃もおありだったんじゃないかなぁ。
一般的にウィンザー公で通っているが、これは退位後の呼名である。
⎡王冠を賭けた恋⎦で知られる王は、今なお服飾史に残る洒落者でもあった。
十九世紀末に産まれた王の破天荒な言動や人生は、この奇妙な時代を鏡のように映している。
なんてたって女と国を天秤に賭けて女をとった挙句、国を出ていっちゃたんだから。
そんな王の名を冠した指輪と腕輪。
当時の細工が文様から留め具にいたるまで忠実に再現されている。
巷にある流行の装飾品にはない、過ぎ去った時代の名残りが薫る。
“ END ” 銀細工職人の上田君も好きなんだろうなぁ。
話は戻って、天才 Guy Ritchie 監督。
倫敦の下町訛で喋るこの男。
イングランド王、エドワード一世の末裔だってご存知でしたか?
英国王の血統で、マドンナの元旦那で、天才映画監督で、いろんな意味で本物だね。

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