百五話 素直じゃない靴

foot the coacher の二〇一二年春夏コレクション最後のアイテムが届いた。
Layered Wing Combi Shoes
これってブラック・バージョンもあったんだけど。
そっちは、とっくの昔に納品されて有難い事に完売した。
⎡ブラウンも見てから決めたい⎦とおっしゃっていた顧客様もおられたのだが。
待ちきれずブラックをお求めになられた。
でも幸いな事に怒られる事はない。
昔はもっと酷かったから。
⎡秋冬の靴が年を越えて春に ⎦なんて頃から比べると上出来だ。
顧客の方々も鍛えられている。
自慢できた話じゃないけどね。
ところで、この靴どうなんでしょうなぁ。
最初に見た時 は、⎡賛否両論だろうな⎦と思っていた。
まぁ、製作者の言分は別にあるのかも知れないが。
要するにグッドイヤー製法でスニーカーの履き心地を実現したというところじゃないかなぁ。
着想としては、トヨタのプリウスにみられるハイブリッド的な。
まずは、そこんとこを良しとするかどうかだろう。
僕自身は、この考えを消極的にではあるが評価している。
時代にも市場にも明快な標がない状況下では、賢明な選択肢のひとつだと思う。
加えて、ハイブリットがもたらす凡庸さに必死に抵抗している感がある。
このあがきにも似た反抗が無ければ、もう竹ヶ原敏之介の靴ではない。
近未来的な概念に反して古典的なウィングチップをデザインの下地に据える。
次にレイヤードの手法で古典的意匠を打崩す。
伊産のショルダー・レザーと山羊革という全く性格の異なる原料を用いている。
色と表情の違いで Crazy Pattern を創りレイヤード感を補強する。
革新を古典で否定し、その古典をさらに異なる革新で否定する。
そして、その道程を一足の靴に透かして魅せる。
およそ、こんな経緯だったんじゃないかなぁ。
屈折してるよねぇ、発想が。
しかし、こうやって眺めると確かに竹ヶ原敏之介の靴だ。
良いんじゃないの。

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