百十九話 黄金虫とラジオの時代

銭、銭、銭、世の中銭さえあれば怖くない。
そんな時代があった。
ちょっと前には“IT長者”みたいなのがいたけど。
そんな品性が良いんだか悪いんだかわかんない、胡散臭くてつまんない連中じゃなくって。
もっと解りやすく“ THE NARIKIN ” みたいなオッサン。
最近見かけないねぇ。
何処にいったんだろう?
もういないのかなぁ?
それともお金無くなっちゃたのかなぁ?
たまに地下鉄に乗って店に行くと。
途中、オッサンの姿をよく見かける。
コマの付いた小さな箱をコロコロ引張ってフラフラと何処かに向かって歩いている。
たいした重さでもなかろうに、もう荷物を担ぐ力も残されていないのか。
オッサンがオッサンに言うのもなんだが、⎡おとうさん方、いけませんなぁ⎦
そりゃぁ、こんな世の中ですから色々とおありでしょうけど。
これからの若い方達の目もあるんだから、少しは意地のひとつも張って戴かないとね。
僕らがガキの頃、街場には黄金虫みたいなオッサンがブンブン飛びまわっていた。
黄金虫(コガネムシ)名は良い響きだが、不細工な身体で何の役にも立たない。
何処で何をして一山当てたのかは知らないがギラギラしていてどこか偉そうにしている。
どこら辺が偉くてどれくらい偉いのかも定かではないが。
多分、自分で自分の事を相当偉いと思ってそうな面をしている。
良いか悪いかは別にして、根拠に乏しい自信が街場に溢れていた。
馬鹿な話だが。
その脂ぎった自信が、僕らに妙な安心感を与え将来が何となく明るいようにも思えた。
⎡こんなオッサンでも儲かるんだから楽勝じゃん⎦みたいな感覚である。
実際生きてみると全然違ったけれど。
問題は、今の若い方々がこの愛すべき黄金虫を見ずに育ったという事である。
⎡世の中は厳しい⎦みたいな事ばかりが目について安心感にも自信にも繋がらない。
世代に生きた者としてこの点では本当に申し訳なく思う次第です。
黄金虫が繁殖していた時代はラジオの隆盛期でもあった。
時代的にはラジオという媒体がどれほどの影響力が今あるのかはわからないが。
職人的で人間味のある独特の雰囲気は他の媒体では味わえない。
そのラジオに出てみないかと誘われた。
昨年の三月にもお誘い戴いたから二度目になる。
初回で局も懲りなかったのかなぁ?
そうだ、どうせ素人故に無茶苦茶な話になるんだったら。
萬札が飛交うような話とか。
ギラついた昭和の黄金虫オヤジの話とか。
お金がジャブジャブ湧いてくるような音楽かけまくって。
場所だったらどんな感じかなぁ。
六本木みたいなダサイとこは止めにして。
新宿・赤坂・池袋・横須賀辺りで。
よく知んないけど。
西だったら宗右衛門町か北新地でどうかなぁ。
京都の先斗町辺りも良いかもしれない。
なんか話だけでも体中に自信がみなぎってくる。
そんな感じにならないかなぁ。
Mr.DJ いつの日か気分の良い時にでも如何ですか? 駄目?

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