百四十話 粗にして野だが卑にあらず。

数年の空白期間を経て再び始動した Authentic Shoe & Co.
そしてこれが始動第一弾となるコレクションのひとつ Lace Up Western である。
名前からしてすでに歪んでいる。
編上げでウエスタンと言うのだから。
相変わらずと言えば相変わらず、らしいと言えばらしい。
竹ヶ原敏之介という男はあまり語らない。
なので定かではないが長い付合いから想像するに多分こういう事だろうと思う。
まずは何処が Western なのか。
Toe には Cowboy boot の Toe Stitch が施してある。
機能的には補強用の刺繍だそうだがこれが無いとさすがに Western とは呼びづらい。
Welt は二重に縫われ酷使に耐える仕事靴として仕上げられている。
素材には Horween Leather 社製のオイルドステアを用いる。
多分クロムエクセルレザーだと思うんだけど。
もしそうなら四種類の異なる油脂で鞣されるこの革はことの外強い。
素材に於いても縫いに於いても堅牢な靴創りに従った手法を選択している。
米国靴のアイコンとも言うべき紋様と手法を用いて北米を代表する名門タンナーの革を使う。
誰が訊いてもこれはもう米国靴そのものだろう。
しかし、ここから先竹ヶ原敏之介の発想は大きく歪んでいく。
Boot Shaft は細く足に沿ってせり上がっている。
突っ込んで履く Western boot と対極にあるフォルムは lace up にする事で解決する。
Top-line も Western boot みたいに曲線を描かず限りなく直線的で鋭角に裁断してある。
さらに Vamp と呼ばれる甲革と Shaft の色を違えてコンビネーション・カラーにする。
こうした手法は Western boot にも無くはないが問題はカラーリングだろう。
全く Western boot らしくない。
この点だけはあまりに気になったので尋ねてみた。
⎡この配色って Western boot 的じゃないよねぇ?⎦
⎡そうですよ⎦
⎡これは英国ビクトリアン時代の配色を用いていますから⎦
⎡いますからって⎦
⎡ついさっきまで、あんた Western boot って言ってたんじゃないの?⎦
ようやく解ったような気がした。
この Lace Up Western と名付けられた靴は、
要するに米国靴を成り立ちから全否定した英国靴なんだろう。
言い方を変えると。
一八八〇年に竹ヶ原敏之介が米国で靴職人として生きていたとする。
さらに H.J. Justin に代わって Cowboy Boot の製作を試みたとしよう。
この与太話が現実であれば現代に於いて Western boot はかくの如き代物になっていた。
とまぁこんなところが歪んだ妄想の原点と推察する。
あ〜、面倒くせぇ〜なぁ。
たかが靴だろう。
なんにつけても思考がまわりくどいんだよ。
最後に本音を語っておこうかな。
僕はこの靴に過去の靴づくりを稼業として生きた多くの職人に対する深い敬意と愛情を感じる。
ある史観に基づいて忠実に製法を再現した後に壊し覆して新たな靴づくりに挑む。
肯定と否定の狭間に産まれる一足の靴がある。
それが良いか悪いかは人それぞれだろう。
だけど安直な時代にあって。
こうした靴に向合う真摯な姿勢とあがきにも似た職人の性に一定の評価があっても良いと思う。
⎡粗にして野だが卑にあらず⎦
これこそが竹ヶ原敏之介の靴なんだろう。
どうでもいいけど俺はあんたの広報担当者じゃないんだからね。

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