百六十七話 かぶいて候。

かつて “ 傾奇者 ” とか “ 歌舞伎者 ” とかと呼ばれる異形の衆が、街中を騒がせた時代があった。
乱世の終焉から江戸時代の始めにかけて、日本の風俗史でも極めて特異な現象が起こる。
派手な着物を袖を通さず肩がけに羽織り、獣の革を接いだ袴を履き、天鵞絨の襟をあしらう。
逆立った髪に大髭という面構えで、口には大煙管をくわえ、腰には朱鞘の刀を差している。
異形という他ない風体でうろつく。
世間体を憚ることなく、その身に権力や秩序への反骨を纏った姿だとされる。
そう言えば、
⎡世界に先駆けた “ PUNKS ” の誕生⎦と卒業論文に記して教授に書直しを命ぜられたことがある。
一九七〇年代中頃に始まった ” PUNK ” という言語は当時まだ新しかった。
老齢一歩手前だった恩師の耳には届いていなかったのかもしれない。
僕は、今だにこの表現は正しかったと思っている。
いづれにしても、“ 傾奇者 ” は日本のサブカルチャーの源流として現代まで受継がれてきた。
行動様式は、侠客と呼ばれる無頼の徒によって。
美意識は、歌舞伎と称される芸能の衆によって。
両者ほど顕著ではなく曖昧とはしているが。
その精神的血脈は、知らず知らずのうちに他の世界にも相承されてきた。
⎡ファッション業界⎦にも。
今、眼の前に一足の靴がある。
この靴、メタリック箔が外から内へと消え去るのと同時に仕様も変化してゆくのだ。
写真ではわかりづらいが、靴の後部が外側のプレーンから内側のメダリオンへと。
さらに、ヴィブラムソールは 黄色のレゴ・カラーに。
なんちゅう奇妙奇天烈な思考が働いたのか?
完全に 、かぶいちゃっています。
こういう靴は真剣に創ってこそ値打ちがある。
いい加減な仕事ではただの玩具に過ぎない。
日本人の職人が仕立た極上グッドイヤー製法の靴だからこそ洒落ているのだと思う。
“ doublet ” 井野将之の仕業です。
日本のファッション界に新たな “ Punker ” が誕生しました。
って、ちょっと大袈裟かなぁ?
それでも、デカパッチのデニム・パンツも瞬殺で完売しましたから。
“ doublet ” のデビュー戦上々と言えるかも。
大したもんですよ。
これからも、ドンドンかぶいて頂戴。

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