百七十三話 今、すぐに欲しい!

大学時代の友人が横浜からやってきて帰っていった。
そして、バレンタインデーのチョコレートとタチの悪い風邪をもらった。
ほんとうに、ありがとね。
⎡大丈夫だよ、インフルエンザじゃないから⎦とかメールしてくれるのは良いけど。
なんの慰めにもなってませんから。
こっちは、娘ふたりを産んで育てた強靭な身体じゃなくて温室育ちの虚弱体質なもんで。
三十九度の熱って、結果はインフルエンザと変わりねぇじゃん。
フラフラしながら新幹線に乗って池尻大橋の kiminori morishita garments lab へ。
“ 08 SIRCUS 2013 fall & winter collection ”
これでコレクションの出来が悪ければ、もうやってられない。
巴里で先行発表した際の写真をご覧になられた顧客様が気になる事を言っておられた。
⎡ちょっと軽過ぎるんじゃないかなぁ⎦
でも、 実際には逆ですなぁ。
写真では、レイヤードを演出しすぎたせいで個々のアイテムが軽い印象に映ったのかもしれない。
意外にというより、
08 sircus スタート以来、久しぶりにメンズ・ウェアらしい強さを表現したコレクションだと思う。
縮絨を中心とした素材感も新鮮だし、
ミリタリー・アイテムにネオン・カラーの総裏ファーを仕込むなんていう発想も大胆だ。
中に、久しぶりにその名を聞いた素材があった。
Cowe Raschel 機で編まれたポリエステルのラッセル・ジャージー。
一九六〇年代に登場して、僕がこの稼業に就いた頃でもまだ生産されていた。
しかし、最近その名を聴くこともない。
コーウィー・ラッセル機なんてまだ可動させてるとこあったんだ。
編物のような織物のような不思議な風合いの素材に仕上げてある。
これでライダース・ジャケットなんて、やっぱり手慣れてるよなぁ。
他にもニードル・パンチ等、御得意のテクニックも随所にいかされている。
技術の見本市みたいな感じだが、森下公則氏のクリエーションにはガッついたところがない。
豊富な手数を繰出しながら、やり過ぎる手前で止める。
寸止めの妙を心得た天才とでも言うか、良い意味で巧妙な服創りが出来るデザイナーだと思う。
なので、二〇一三年秋冬もご期待ください。
ところで、なんか身体の芯から冷えてきた。
熱も下がってそうにないし。
このファー・ライナーのモッズ・コート、こんな寒空の下では最強なんだろうなぁ。
今、すぐに欲しい。

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