百七十四話 mastermind JAPAN Last Season GOODBYE SKULL!

巴里の Bourse で出逢ったあの日から十五年ほどの年月が経つ。
月並みな表現だが、長かったような短かったようなそんな時間だった。
ファッション界で異端の成功を収めたブランドが、ラスト・シーズンを迎えようとしている。
“ mastermind JAPAN ”
想えば不思議なブランドである。
不況下の日本から世界に向かって MADE IN JAPAN の素晴らしさを唱えた。
日本の繊維産業に残された最後の技術と力量を懸けて挑んだ戦いだったと思う。
懸命に積上げ研鑽してきたものが正当に評価されず、
工賃を安く叩かれ、挙句にはより安い人件費の海外工場へと注文は流れた。
多くの日本人はそれをあたりまえだと思ったし、しょうがないと諦めもした。
そんな時世にあって、彼等は風前にある日本のモノ創りの誇りを安く売ろうとはしなかった。
トップ・メゾンと肩を並べ、そして上回る価格を提示する。
商品価値と商品価格が正当であるかどうかは市場が判断し裁可を下す。
発売時には人が並び、店舗には問合せの電話が連日かかり続ける。
結果、ひと欠片の在庫も残らない。
その現象に賛否はあろうが、日本の服飾製品が高い評価を受けた証しであることには違いない。
御苦労なさってこられた産地の方々も、ひと時にせよ胸がすく想いをされたんじゃないかなぁ。
十五年程前、勤めていた紡績会社を去る時最後に手がけた素材があった。
値段も高く、少なくとも国内需要は見込めないだろうと内心思いながら退職した。
当時客先から言われた。
⎡紡績技術がどんなに高くたって、もう後加工でどうとでも誤摩化しが効く時代なんだよ⎦
⎡だから希少原綿を投入した値段の高い糸はいらない⎦
その素材が mastermind JAPAN によって製品化され巴里で披露された。
良い歳をして青臭い話だが、少し報われた気分になったのを憶えている。
mastermind JAPAN は、
そのクリエーションにおいて、日本の繊維製造業にささやかな尊厳を取戻してくれたと思っている。
そして、こうしたブランドと設立期から付合えた事を稼業の誉れとしていくつもりだ。
係わられた皆様、長い間支持していただいた顧客様、全ての方々に心より感謝申し上げます。
mastermind JAPAN last season 、明日、二月二十三日幕を開けます。
本間君の話では、八月頃までいろんなイベントがあるらしいですから存分にお楽しみ下さい。
宜しくです。
本間君、また何んか一緒にやろうよ。
歳が歳だから長くは待てないけど、楽しみにしてるから。

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