百七十八話 七転び八起き

災厄の日から二年が経つ。
僕の知合いには、被災地東北の出身者やそこに住まう者はいない。
そのため報道から今を知るしか術がない。
もし報道が真実を伝えているんだとしたら、復興への道程は想像や覚悟以上に厳しそうだ。
それでも、くじけず、投出さず、四苦八苦の想いで懸命に糧を繫いでおられる。
僕自身もそうだけど、皆がよく口にする言葉がある。
“東北人気質”
地方それぞれに気質というのがあって 、
それは辛抱強く粘り強い性格が土着の気風として、この地にある事を意味している。
皆が口々に言うこのある種賛美にも似た言葉を、当の方々はどう受止めておられるのだろう。
⎡あんた方は、生来我慢強いからきっと大丈夫だよねぇ?⎦
よくよく考えると無責任な言回しなのかもしれない。
真に受けて重荷に感じておられる方もいらっしゃるかもしれない。
想えば、中越地震の際には “越後人気質” なんて言っていた。
俺たちの時はどうだっただろう。
たしか “ 神戸っ子 ” だったかなぁ。
どんな時でも明るく笑顔でとか言われた。
⎡こんな目に逢って笑ってられるかよ!⎦と内心思っていたような気がする。
一度や二度は、言われた相手に声を出して訴えたような気もする。
もちろん皆悪気があって口にしている訳ではない。
頑張る姿を讃え、励まそうと言ってるんだろうけれど。
なんか東北人には特別な力の源泉があって、それを根拠に大丈夫って言うならちょっと違うと思う。
東北人も、越後人も、関西人も、未曾有の難儀を跳ね返す特別な才を持合わせているわけではない。
人智を越えた災厄の前では、一介の日本人にすぎない。
だとしたら、ただの日本人同士ちょっとづつ頑張ってなんとかするしかないんじゃないかなぁ。
会津地方に古来より伝わる “ 起き上がり小法師 ” という郷土玩具がある。
何度倒れても起上がるという “七転び八起き” の精神を今に伝えていると聞く。
しかし、ひとの営みは玩具のように簡単にはいかない。

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