百八十六話 でない!!!

まだ勤人だった頃、その事件は起こった。
フィレンツェに出張して、毎日毎晩取り憑かれたように Chianina 牛を喰っていた。
“ Bistecca alla Fiorentina ”
フィレンツェの名物料理で、炭火焼きTボーン・ステーキである。
そして、二週間余りの出張を終えて帰国したその晩に腹に異変を感じる。
⎡痛ェ〜⎦
身体を丸めて腹を押さえて脂汗をかきながら嫁に訴える。
⎡どうしたのぉ?⎦
⎡腹が、腹がものすご〜く痛ェ〜⎦
⎡大丈夫?救急車呼ぶ?⎦
⎡呼ばなくてもいいけど、大丈夫じゃない⎦
⎡よし、わたしが連れてってあげるからついといで⎦
って言われても、二足歩行は無理でハイハイしながら車に乗込む。
夜中の三時も過ぎた街中を救急病院に向けて猛スピードで車を走らせる。
大義を掲げた嫁の運転はほんとうに恐ろしい。
リミッターを振切るスピードで飛ばす。
⎡俺、腹痛か事故かどっちかであの世行きかも⎦
一軒目の病院は医師が緊急手術中で断られ、二軒目の病院へ。
僕を診察室のベットに寝かし腹を掌で押しながら医者が告げた。
⎡そうとう便が溜ってますなぁ〜、原因はそれだね⎦
⎡えっ?それって便秘?⎦
⎡ちょっとぉ、いい加減にしてよね!ただの糞詰まりなのぉ?⎦
医者が僕を庇うように嫁を諭す。
⎡奥さん、便秘を馬鹿にしたら駄目ですよ⎦
⎡御主人、ほとんど腸閉塞状態で、もし閉塞がこれ以上進めば意識が混濁することもあるから⎦
しかし、すっかり興味が失せた嫁の耳には届かない。
そして、医師の手で口にするのもおぞましい処置をしてもらった。
⎡明日朝早いんでしょ、帰るよ⎦
⎡俺、この調子で出社できるかなぁ⎦
⎡なに言ってんのぉ! たかが便秘で会社休む馬鹿が何処にいんのよぉ!⎦
⎡だよねぇ〜、でも、俺がヒヨコだったら完全にお陀仏だったところだよなぁ⎦
⎡はぁ? あんた馬鹿ですかぁ? ダチョウみたいな身体して意味わかんない!⎦
締まりの悪い顛末だったが、それ以降いろいろと快便を促す術を探ることにした。
そうやって行着いたのがこのお茶である。
“ 美爽煌茶 ”
カッシア・アラタという熱帯亜細亜に自生する薬草を乾燥させ粉末状にする。
その粉末をティー・パックに詰め煮出して飲むという代物である。
一三〇〇年ほど前からバリ島に伝わる薬草茶らしい。
現地では、便秘の効能というよりは、単なる健康茶として多くの人が常飲しているのだという。
ただ、この薬草に含まれるクリソファノールという成分が滞った便に作用するそうだ。
実際試してみると、習慣性に捕われることもなく、効き目が過ぎるということもない。
“ Natural & Comfortable ” 的な効果をお約束いたします。
ところで、なんで服屋の blog にあるまじき話を披露しているかと言うと。
先日、顧客様からこの手の問題で困っているとお聞きしたので、ちょっと御紹介させて戴きました。
便秘でお困りの同胞の皆様、糞詰まりで救急車を呼ぶ前に一度お試しください。

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