百九十五話 初の OUTLET

海辺の家で、庭仕事を一通り終えた休日の午後。
⎡ねぇ、机の上の細々したものを収める木箱が欲しいんだけど⎦
⎡これ、良くない?⎦
チラシをひらひらさせながら嫁が言う。
⎡これ何処のチラシ?⎦
⎡ほら、浜に建ってるアウトレットモールあんじゃん、そこのよ⎦
そういや、明石海峡大橋を望む浜辺に、よくわからない白っぽい施設がいつの頃からか在るよなぁ。
時を忘れる陽気な南欧の港町を連想させる。
夕日が瀬戸内海に沈むロマンチックなロケーションが味わえる。
って、チラシに書いてあるけど。
あの浜って、昔は漁港で、今も漁港で。
パンチパーマでジャージ姿の漁師さんがガニ股で歩いてるような場所だし。
確かに夕日は沈むけど、輝いてんのは大漁旗だし。
南欧のロマンチックという風情には、ちょっと遠いような気がする。
それでも、アウトレットには海外も含めて行ったことがなくて、産まれて初の体験に期待が膨らむ。
施設内に入ると想像以上に広いし、幾つも棟が並んでいてそれぞれに大きい。
⎡アウトレットって、でかいよなぁ⎦
⎡これって、中に沢山の店屋さんがあるんでしょ? きっと、いろんなものがあるよぉ⎦
⎡やったね!楽しそうじゃん⎦
ご機嫌の嫁が言うように、いろんなものがあるはずだった。
一軒、二軒、三軒、四軒目くらいで、いろんなものが無さそうだと気づく。
チノパンやチェックシャツとか、微妙に違うけどほぼ同じアイテム。
それらのアイテムが、圧倒的な種類と量で店を占めている。
そして同じ状況の店が、圧倒的な規模と店舗数でモール全体を占めている。
なるほどねぇ〜、そういう事かぁ。
売れるものは、まちまちで方向が定まらない。
売れないものは、同じだが事前には読みにくい。
結果、こうなる。
アウトレットは、過剰在庫を抑制するという機能を持った装置みたいなもんだろう。
だから、この現象は当然と言えば当然である。
流通業界の惨状を垣間見るようで、ちょっとテンションが下がったけど。
日頃、こんなにいろんな店屋を見て回る事が無いので、それなりに楽しい。
⎡せっかく来たんだからなんか買おうよ⎦
なんか祭の縁日的な気分で、服屋を諦め雑貨屋を巡ることにする。
そもそもの目的だったアンティーク木箱をふたつ、兎のフィギュアに変身するエコバック。
それと、ネオンカラーの英国製ニットキャップをピンクとグリーンの二色買った。
買物自体、大満足という訳にはいかなかったが、休日午後の時間潰しとしては上等だと思う。
ぶらぶらしていると、偶然にも向こうから顧客さんが歩いて来られた。
若いが洒落者の方である。
手ぶらだ。
⎡へぇ〜、アウトレットとかにも来るんだぁ⎦
⎡いえ、昼飯後の散歩です⎦
やっぱりね。

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