三百三十一話 未完の完?

うん?
刺繍まだ途中じゃないの?

あれ?
まだ編終わってないんじゃないの?
いいえ、“ doublet ” の井野君的にはこれで完成です。
“ 未完の完 ”
無い話ではない。
但し、芸術分野での話だけど。
喩えば、Katherine Mansfield の短編「ある既婚者の話 」には、編者でもある夫がこう言添えている。
“ Unfinished yet somehow complete piece ”
“ 未完でありながら、なぜか完成した作品 ”
絵画では、Henri Matisse の名作 “ The Dance ” なんかもそうだろう。
描き終わっていない未完成作品である。
ちょっと異なるかもしれないが、有名な “ Venus de Milo ” もそうだというひともいる。
失われた欠損箇所をそのままに、それでも至宝と誰もがいう。
“ 未完の完 ” とは、逆説的な表現ではある。
しかし、質的完成度としてそう表すしかない美が世の中にはあることも事実だ。
さて、このデザインが、そんな “ 未完の完 ” を意識してなされたものか?否か?それは知らない。
だけど、何かを強く意図しなければ、こうなるはずもない。

デザイナーなんていう存在は面倒臭いもんだと、つくづくそう思う。

 

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