三百三十話 Fuckin Dead Leaves!

十二月一日の月曜日、海辺の家に居た。
この一年の間、月曜日はだいたい此処で過ごしている。
朝早くに起きて、先に庭へと出た嫁がニヤニヤしていて。
「おはよう、そしてご愁傷様でございます」
「えっ? なんかあった?」
「庭がね、枯葉でね、埋まっててね、そんでもってね、雨が降ってね、濡れてますの」
「本日は、あまりご無理なさいませんようにって言ってあげたいけど、こりゃぁ大変だわ」
恐る恐る庭に出てみた。
Jesus Christ !
Fuckin dead leaves !
庭には、桜、梅、藤、楓、紫陽花といった連中がいて。
どれも古くて、どれも大きくて、落とす枯葉の量も半端ない。
毎年の例で言うと、リッター換算で九〇〇ℓから一〇〇〇ℓ位の量となる。
大型の塵袋に、パンパンになるまで詰込んで十二袋以上収集しなくてはならない計算だ。
それでも庭の一部で、全体をくまなくやればその倍はあるだろう。
そして、濡れた枯葉ほど始末に悪いものはない。
電動バキュームどころか、場所によっては熊手すら、濡れてへばりついた枯葉には役に立たない。
道具は、自分の手だけとなる。
乾くまで放っておけば良さそうなものだが、週に一度となるとそうもいかない。
一週間このままで置くと、溝という溝は詰まり排水不全に陥る。
また風でも吹けば、ご近所に迷惑の種を撒き散らすことにもなってしまう。
なので、今日やるしかない。
俯いて、集めては袋へという作業を黙々と繰返す。
これは、もはや作業というより修行に近い。
そうしていると、頭の上にハラハラと何かが落ちてくる。
枯葉だ、紅く染まった桜の落葉だ。
嫌な予感がして上を見上げる。
桜の枝には、もういくらも葉は残っていない。
いったい何処から?
Oh My God !!!!!
庭には、松や、柘や、ヒマラヤ杉や、山桃といった葉を落とさない良い子の常緑樹達もいる。
それらの落葉せずに緑に茂った葉の上が、茶色く盛上がっているのだ。
濡れて落ちずにいた枯葉の上に新たな枯葉が積み上がる。
そうしてまた濡れてを繰返した挙句、高い所で茂った葉の上に枯葉を盛っているのだ。
それを、乾いた尻から頭上に投下してやがる。
あぁ、そういうことかぁ、頭上に枯葉の巣があるみたいなことねってかぁ?
畜生! やってられんわぁ!
松に梯子を架け、熊手を手に登り、叩きながら地面に向かってドサッと落とす。
終われば、柘に、ヒマラヤ杉へと、しかし山桃はさすがに無理だ。
この何百年も生きてる老木は、屋根を遥かに越えていて、とても梯子が届く高さではない。
登って枝が折れて転落すれば、確実に命にかかわる。
最初はゴム手袋をしてやっていたのだが、石の角や枝ですぐ破けるので、諦めて素手にした。
そうやって四苦八苦しながらも、なんとかやり終えた頃。
「うわぁ、綺麗になったじゃん」
「でもこの季節は大変だよねぇ、明日身体痛くなるんじゃない?」
「 机の上に湿布薬を出しといたから貼ればぁ」
「湿布薬より、明日仕事休んでも良いかなぁ?」
「それは駄目!」
この季節。
世間のひとは、紅葉を愛でようとあちらこちらに出掛けておられると聞く。

その風情が、僕にはどうしてもわからない。

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