三百二十八話 “ まさかの店干し! ” をなんとか終えた Trouser です。
Musée du Dragon が、ANSNAM の中野靖先生にお願いしてお創り戴いた有難い Trouser です。
「先生、年末のお忙しい最中、お手を煩わせまして申訳ありませんでした」
「洗い加工の際、お手など冷たくはございませんでしたでしょうか?」
「荒れると大変なので、高級ハンド・クリームでも送らせて戴きます」
ってな事、言うわけもねぇし、送りもしねぇよ!
そもそも、こう見えても服屋なんだよ!
うちは、洗濯屋じゃねぇんだぁ!
なんで、店ん中で干し物なんかしなきゃなんねぇんだ!
blog を読まれた方がいらっしゃって。
「あの店干しパンツって、どれですか?」
ほれみろ!すっかり “ 店干しパンツ ” なんて干物みたいな名称に成り下がってんじゃねぇかよ!
情けない、ホント情けない。
これで出来が悪ければ、迷わずオサラバするとこなんだけど、そうもいかない所が厄介なのである。
とても残念なことに、この仕立服をこなせる人間はそうはいない。
だから、こうやって毎度毎度危ない橋を渡ることになるのだ。
今回は、同じ産地の全く異なる布を使って、ふたつのボトムを考えてみた。
遠州地域は、江戸中期から続く日本有数の綿織物産地として知られる。
一時期、遠州織物はその量に於いて世界を席巻した。
その後の衰退期を凌ぎつつも織布技術の研鑽を怠らなかった遠州織物は、
今、量ではなく質で世界に認められようとしている。
そんな産地で織られたひとつ目の布は、遠州ツィードと呼ばれる厚地織物です。
紡毛糸で織られたツィード生地は、五センチ以下の梳かない毛で織られる。
なので、一般的に折れ目がつきやすく弱いので強度が要求されるボトムには向かないとされている。
しかし、二〇%のヘンプを混ぜたこのツィードは、充分に強い。
遠州の旧いシャトル織機を超低速で操り高密度に織上げ、さらに水に通すことで詰めていく。
綿織物産地ならではの妙技と言える。
ツィード生来の暖かさと強度を合わせて備えた独特の織物に仕上った。
Musée du Dragon 別注 “ ANSNAM ENSYU Tweed Two Pleats Trouser ”
そしてもう一方は、これです。
“ 馬布 ” と呼ばれる布で、僕の最も好きな素材です。
馬具として用いられる布のひとつで、鞍が滑らないように敷く。
とても密度の高い布で、同じく遠州のシャトル織機によって丁重に織られる。
薄く、軽く、強く、風は通さない。
通常は、綿一〇〇%なのだが、 この布の経糸には糸染めされたウールが打込まれている。
深く複雑な濃緑色は、この交織によってもたらされる。
ウール混素材としての保温性も同時に担保されていて。
結果、素材混率は、綿六〇%・ウール四〇%という構成になる。
綿に限らず色んな異素材を呼込むことで新たな可能性が広がり、産地の停滞を招かずに済む。
この布も、そうした試みから産まれた。
こちらの Trouser は、先程の Two Pleats とは異なりOne Pleats で仕立た。
Musée du Dragon 別注 “ ANSNAM Bafu One Pleats Trouser ”
“ 店干しパンツ ” という名ではありませんが、どちらもちょっとした自信作です。
そして、中野靖先生の強いご意向によりサイズ別の分納となっております。
大きめのサイズをご希望の方は、十二月七日以降でお願いいたします。
僕のせいではありませんので、悪しからず。