三百十八話 洒落た天麩羅屋

「なんか蔭山さんの行く飯屋って昭和臭いとこばっかですよねぇ」
「いや、昭和臭いってだけで、爺臭いと言ってるわけじゃないですよ」
「どう違うって言うんだよ! 」
「どっちかって言うとちょっと渋めかなぁ、みたいな」
こういう失礼な事を面と向かってほざく奴もいる。
他人になんか言われて、飯屋の嗜好を改めるつもりは毛頭ないが。
小洒落た飯屋の一軒くらい知っておいても損はないと思い、出掛けることにした。
なのだが、今時の飯屋とはどんな感じなのか?
そもそも、お洒落な食いものとはなんなのか?
「うわぁ〜、おじさん、こんな感じのお店知ってんだぁ〜」的な飯屋は何処にあるのか?
さっぱり解りません。
そこで、神戸OL のグルメ blog を検索してみる。
あるわ!あるわ!次々いろんな店屋がでてきて、しかもそこには知ってる飯屋が一軒もない。
選びきれないので、 好物の天麩羅と蕎麦に限定して探ってみた。
さすがに、天麩羅と蕎麦にお洒落も糞もないだろうと思っていると、一軒の飯屋が引っかかる。
“ Isogami Fry Bar ”
う〜ん、屋号からして洒落てるじゃないの。
もう、横文字なんかチラつかせているところからして、出来る感じを漂わせている。
此処だ! 此処にしよう!
神戸市役所の東側、磯上通りに面した白くてこぢんまりとした飯屋で。
外観からは天麩羅や蕎麦を供する店屋とは思えない構えだ。
誰がどう見たって、BAR か Café だろう。
案の定、OL さんのグループが居て、卓は満席で、カウンター席しか空いていないらしい。
亭主は、若いんだか歳喰ってんだか、一見では解んないけど茶髪だ。
「あのぉ〜、ウチは創作天麩羅をお出ししてるんですけどぉ、大丈夫ですか?」
「わかんねぇよ、そんなの、創作天麩羅なんて喰ったことねぇもん」
「じゃぁ、コースでお試し戴ければよろしいかと」
付きだしは、キハダ鮪と豆腐のカルパッチョ。
天使の海老のお造りは、頭だけを揚げて、身は山葵醤油で。
天使の海老は、ニューカレドニア産のブラックタイガーらしいが、生食出来るのだという。
サラダには、サーモンが添えてある。
この時点で、この茶髪の亭主が只者ではないと知る。
洒落た盛り付けで、 馴染みのない食い合せだが、違和感なく絶妙に旨い。
そして、肝心の創作天麩羅へと。
スモークチーズと淡路産玉葱。
神戸産トマトとバジルには粗目砂糖が散らされていて甘い。
イクラが載せられた帆立の天麩羅。
神戸牛の天麩羅は、山葵醤油で。
圧巻は、煮穴子と有馬山椒の天麩羅で、寿司屋でもこうはいかないというほど旨く煮付けてある。
とにかく、味がバラけていないのだ。
創作だか何だか知らないけれど、こんな喰い方もあるじゃなくて、こう喰った方が旨いと思わせる。
それくらい味が練れている。
〆は、十割蕎麦なのだそうだ。
十割蕎麦は、数分放って置くと固まって団子状になってしまう。
目の離せない天麩羅を揚げながらどうやってと訊くと、さすがにそこは機械打ちらしい。
なので、蕎麦の香りを楽しむというわけにはいかないが、揚げ物後の〆としては有難い流れだろう。
「本日、バームクーヘンの天麩羅アイスクリーム添えをご用意しておりますが、如何しましょう?」
「どうせなに訊かれても、味の想像がつかないから、好きにして」
銀の杯に載せられてでてきた。
「マジかぁ〜、これ完全にアリだわぁ!」
もう何処のバームクーヘンでも、全部揚げれば良いのに。
この “ Isogami Fry Bar ” 色々とイケナイ事にも使えそうな気もするのだが。

まぁ、飯屋探す前に、一緒に行ってくれるオネェちゃん探せっていう話だけどね。

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