三百十五話 Sabot を履いて Sabotage

日本語の “ サボる ” の語源が、仏語の “ Sabotage ”  であることは知っていたけど。
労働者が、使用者に対して行う労働争議を意味するその言葉の起源までは知らなかった。
産業革命の初期というから十八世紀半ばの話だろう。
不平不満が募った 労働者が、機械化されたばかりの製造機に履いていた靴を投込んだらしい。
製造機を壊して、生産力を削ぎ、使用者に打撃を与えようとしたのか?
単に、労働を拒んでのことだったのか?
それは解らないが、今で言うストライキみたいなもんだったようだ。
当時の農民や労働者は、Sabot と呼ばれる木靴を履いていた。
その投込まれた Sabot に因んで、この種の労働争議を Sabotage と呼ぶようになったという。
たいして役に立ちそうにもない知識だが、そういうことなんだそうである。
この Sabot は、当初木製の靴だったが、いろんな素材を用いて創られるようになる。
今では、木製であることの方が珍しく、革製だったり、布製だったりの方が一般的だろう。
この Sabot も、フェルト素材で創られている。
foot the coacher が、フィンランドの老舗 Lahtiset 社と組んで製作した極寒用外履き靴だ。
現地では、フオパトッスの名で知られていて、国民的靴なのだと聞く。
温泉の蒸気で縮絨させた羊毛を、まだ濡れている状態で木型に沿わせて成型する。
そして、八日間乾燥させて仕上げる。
こうした昔ながらの製法を駆使しているところは、珍しいらしい。
その北欧靴に、二.五ミリ厚の革製インソールを仕込み、ラバーソールで外履き靴として仕立た。
甲のフェルト部分には、英国の£ 1貨幣があしらわれている。
ホッコリとした可愛い面構えだが、極限の寒さから身を守る保温力を備えた優れものでもある。
僕は、フィンランドの寒さを知っている。
昔、自分は行ったこともないくせに「 高緯度の国だけど、結構暖かいから」とか言って、
なんのあてもない出張に送出した上席がいた。
Helsinki-Vantaan 空港のロビーを一歩出た瞬間、体験したことのない寒さに襲われる。
正直、送出した上席を訴えてやろうかと思った。

その時、頭に “ Sabotage ” という言葉がよぎったのを今でも憶えている。

 

 

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