二百八十二話 竹ヶ原敏之介 と 宮下貴裕

猫も杓子も、右を向いても左を向いても。
COLLABORATION !
欲と都合で、手垢に塗れた所業としか言いようがない。
そもそも、Collaboration ってなに?
誰かと誰か、何かと何かが、結びついて、違う価値観のモノを産み出す。
そんな難解な仕事を、こうやって世の中に溢れるほどの数をこなせるとは、とても思えない。
そういった穿った目線で、この靴を眺めてみる。
“ The Soloist ” の宮下貴裕氏と、“ Authentic Shoe & Co. ” の竹ヶ原敏之介君が、組んで創った。
僕は、宮下貴裕という人を、よくは知らないが。
NUMBER (N)INE のデザイナーとして、日本のメンズ・ファッション界を席巻した人物で。
良くも悪くもだけど。
それまでの業界の在り方を、根っこから変えた立役者のひとりだと思っている。
そして突然、 NUMBER (N)INE の一切から身を引き、新たに “ The Soloist  ” を立ち上げると公表した。
その際、自らのブランドを、Rock Band に見立てて、閉鎖ではなく解散と表現していた。
そんなところにも、どこか異端な気配が立ち籠めている。
一方の竹ヶ原敏之介君も、孤高の偏屈人間である。
これに関しては間違いない。
Authentic Shoe & Co. を創業する前からの長い付合いだから。
昔、聞いた台詞がある。
「なんか、その企画、金の匂いがして、僕はやりたくないなぁ」
「はぁ?寝言は寝てから言えよ! 」
「銭の匂いのしねえ仕事なんぞ、仕事じゃねえんだよ!」
と言ったところで、やらないと言出したら、絶対にやらない。
偏屈なのである。
異端と偏屈、気が合わないはずなのだが、聞くところによると、これが意外と合うらしい。
癖の強いふたりが、目指すものとは?
NUMBER (N)INE 時代から、幾度もふたりの共作を見てきた。
いつも、ふたりの名を聞いて、誰しもが期待するような強い印象は受けない。
しかし、いつの時代の何に敬意を込めて創られたのかは、明快に伝わってくる。
そして、単なるリスペクトに終わらない細部へのこだわりは、半端ない。
洋服屋と靴屋が、それぞれの領分をわきまえ、本当に自分達が履きたいものを創る。
その事に偽りはないんだろうと感じさせられる。

でもって、どんなに嗅いでも、銭の匂いは漂ってこない。

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