二百七十八話 縦が駄目なら、横に使ってみな! 的な。

「うわぁ〜、なに!これぇ!」
朝、起きてくると、洗濯機の槽に頭を突っ込んで騒いでいる。
「どうしたの?」
「ちょっとぉ、洗濯機になんか変なもの入れなかったぁ?」
「べつに入れてねぇよ、昨日着てた服は入れたけど」
「中が、糸屑だらけになってんのよ」
「どうして?」
「それが、解んないから訊いてんじゃん!ちゃんと、頭使ってよ!」
犯人は、昨日着ていたスウェット・シャツだった。
綿一〇〇%素材で、裏面のパイル地が起毛してあるヴィンテージ・スウェット・シャツ。
嫁が言う糸屑の正体は、裏起毛の際に生じたものだろう。
「そういや、学生時代に着てた MADE IN USA のスウェットって、こんな感じだったよね」
「でも、今時、こんなスウェット何処で売ってんの? 古着屋?」
「何言ってんの、うちだよ、Musée du Dragon だよ、悪いけど」
「マジでぇ〜、これうちのなのぉ?駄目じゃん!」
「駄目じゃない、駄目じゃない、糸屑も含めて、ヴィンテージ感を再現するのが狙いなんだから」
「意味わかんない!とにかく、今から、洗濯槽の掃除やんなきゃなんないんだから!」
まぁ、この手の話が通じる女っていうのも、それはそれで問題だけど。
NUMERO UNO × Riding High 両社によるスウェット・アイテム。
King of Sweat と言えば、米国 Champion 社による製品だろう。
学生時代に着ていたのも、やはり Champion のそれだった。
Reverse Weave と呼ばれる独特の製法が採用されていて。
表側を平編みのジャージー、裏側をパイル編みとした二層構造の生地が考案される。
その素材をもとに、吸汗性に優れ、セーターのような保温性をもつ服を開発しようと試みられた。
しかし、 当初の製品は、洗うと縮んで、裾が短くなってしまった。
なんとかならないのか?
そこで、短絡的な米国人は、極めて合理的で、画期的手法を思いつく。
生地を、縦横逆方向に使い、さらに脇にリブ編みの生地を挟む事で、縦横双方向の縮みを解消する。
こんな荒技は、ヤンキーの頭からしか産まれないだろう。
Reverse Weave 製法とは、そんな製法である。
また、編機も変わっている。
一本のセンター・シャフトで梁から吊り下げられ、
放射状に針が配列されたシンカー・ホイールを特徴とする丸編機だ。
とても、編み効率の悪い代物だが、独特の風合を産む。
目黒の Riding High と言えば、このヴィンテージ ・スウェットで、一目を置かれる存在らしい。
着てみると。
「あぁ、確かにこんな感じだったよなぁ」
米国製品に、根拠のない憧れを抱いていた時代が蘇る。
縦が駄目なら、横に使ってみな!
日本人なら、到底湧かない発想だろう。
たまには、こんなヴィンテージ ・スウェット如何でしょう?
ただ、ご忠告しておきます。

洗濯は、初回のみご自分でされた方が、身のためかと。

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