二百五十六話 Black Watch

Musée du Dragon が、“ Galaabend ” に依頼したという前回の話についての問合せで。
⎡あの写真に映ってるパンツって、黒無地ですか?⎦
いいえ、違います。
一応書いておいたけど、Black Watch です。
どんな Black Watch ですか?とまた尋ねられても困るので、写真を載せておきます。
“ 黒い見張り番 ” という意味の格子柄綾織物。
Scotland 高地地方出身者から成る独立歩兵中隊六隊の別名に由来する。
一七〇〇年代初頭に、編成されたらしい。
以来、勇猛果敢な戦歴と見事な揃いの軍装束は、派兵先の各国で知られるようになる。
この英国伝統の織布に、伸縮機能を付加して、細身のトラウザーに仕立てる。
腿から裾にかけて細くなっていくテーパード・シルェット。
裾は、あらかじめ五センチ巾を返して仕上げてある。
見所は、ただひとつ、その端麗なラインのみ。
一切無駄がなくて、ストイックな風情が漂う一本です。
まことに潔い。
ブランドは、“ Galaabend ”。
デザイナーは、大川原 美樹。
美樹ちゃん?
Musée du Dragon では珍しく女性デザイナーです。
全く親しくないけど、確固たる経歴を持つ、豪腕の仕事人だと聞く。
いままで、いろんな国の、いろんな業種のクリエイターと付合ってきた。
男性も、女性も、どっちにも属さない人もいた。
男だから、女だからという時代でもないとは承知しているが。
この稼業に於いては、やはり異なると思う。
ちまちま細かい仕様にこだわったり、市場を意識し過ぎてデザインがまるくなったり、
頑固そうに見えて意外と決めきれず悩んだりするのは、大抵が男性デザイナーだ。
その点、女性デザイナーは違う。
自分の世界観を暈すことはしない、表現も、鋭角的で、遠回りをせず最短をいく。
要するに、度胸があるのだと思う。
話が、ちょっと逸れるけど。
互いの領域を重ねるようなコラボレーションとかも、苦手なんじゃないかなぁ。
ある女性デザイナーに、昔、言われたことがある。
⎡ひとりで渡れない橋を、ふたりで渡ったら余計落ちるじゃんか、バッカじゃないの?⎦
まぁ、ある意味おっしゃる通りかも知れない。
だって、恐いんだもんというのが、実は、雄の発想なのだ。
さて、“ Galaabend ” だが。
メンズ業界にあって、孤高の世界観を貫く数少ないブランドのひとつだと思う。
何が流行ろうと、何が廃れようと、気にはしない。
どんな著名人が顧客であろうと、媚びることはない。
頼みにするのは、己の世界観と、腕ひとつ。
カッケェ〜。
頑張れ “ Galaabend ”! 頑張れ美樹ちゃん!

⎡うるさいよ! 頑張るのは、テメェだろうが!⎦ って、言われそうだけど。

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