二百五十五話 初仕事


“ galaabend ”
八年前か、九年前か、それくらい前だった思う。
いきなりShop に、取扱ってくれと、コレクションを携えてやって来た。
こういった事は、別に珍しくもない。
わざわざ来てくれたからといって、じゃぁ、やりましょうというほど甘くもないけど。
一番の問題は、サイズ感だった。
とにかく細身に仕立られている。
Musée du Dragon には、四十歳から五十歳半ばの方々が多い。
皆さん、それなりの対策を練られているのだろうけど、それでもやはり付くところには付く。
そういう歳頃なのだから、しょうがない。
だからといって、 単純に大きく仕立てれば、魅力は半減してしまう。
この難題を解決せぬまま、それでも捨て難い世界観を持ったこのブランドを、細々と続けてきた。
昨年の夏あたりから、その “ galaabend ”  が妙な雲行きになってくる。
何処で訊かれたのか、問合せが相次ぐ。
なんせ、細々と展開していたもんだから、在庫がすぐ底を付き、取寄せて対応しても間に合わない。
挙句、追加生産を依頼する。
どうなってんの?
ミュージシャンや、俳優に多くの顧客を持ち、映画の衣装も手掛けているので、
そのせいかとも思ったが、尋ねてみるとそうでもないらしい。
そうこうしていると、体型的に無理だと諦めていた顧客さんまでもが。
⎡俺も、こんなのが着てみたい⎦
⎡マジですかぁ?でも、無理ですよ、入んないからぁ⎦
⎡やめてね、そういうのに興味持つの⎦
⎡面倒臭いから⎦
⎡なんとかしろよ!それが、テメェの仕事だろうがよ!⎦
まさかの “ galaabend ” への Musée du Dragon 別注。
年明け早々、また余計なリスクを背負い込む事に。
大体、細身が売りのカッコ良い服を、大っきくしてカッコ良くしろって言われても。
そんな事がパッパッと出来るようなら、こんなとこで服屋の亭主なんかやってねぇよ。
とにかく、“ galaabend ” の担当者に来て貰う。
経緯を伝えて、訊く。
⎡どうする?やんないよねぇ?お互い面倒だもんねぇ ⎦
⎡大きく創れなんて、笑っちゃうよね⎦
⎡いや、やれますよ⎦
⎡えっ、やっちゃうの?⎦
⎡で、どれくらい大っきくすればいいんですか?⎦
⎡とりあえず、僕くらい⎦
⎡………………………。⎦
そうして完成した Fishtail Parka とBlack Watch Slim Trouser です。
独特のシルエットを、微塵も損なわず、要望どおりのサイズに。
あの “ galaabend ” が、僕も着れる。
そして、あなたも着れる。
みんなが着れる “ galaabend ” ?
もちろん、従来のサイズも展開するので、S・M・L の三サイズになっております。

Musée du Dragon ならではの 二〇一四年初仕事です。

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