二百四十八話 ANSNAM の中野靖だけど、なんか文句でも?

先日、二〇一三年の〆のアイテムですとか、なんとかお伝えしたように思いますが。
嘘でした。
もう、依頼した事すら記憶になかったモノが届く。
そういや、蜜柑色の手編みのセーターを創ってくれと誰かに頼んだような。
忘れていた俺が悪いのか?
いや、忘れさせるほど遅れた奴が悪いに決まっている。
やっぱり奴か?
ANSNAM の中野靖だ。
年も暮れようかという頃に、反省の欠片もなく、改心の素振りもなく、しれっと送ってくる。
ったく、いつもいつも、なんて野郎だ。
こうやって、編上がったセーターを見ていると、発注時の苦々しいやりとりが蘇ってきた。
⎡蜜柑色のセーター欲しいから、カシミヤの色見本送ってよ⎦
送られてきた色見本を見ると、どうもピンとこない。
⎡この糸だけだと単調だよなぁ、別の糸を組合わせて深みを出さないと⎦
⎡Lamb’s Wool かなんかで考えるか?⎦
⎡良いですよ、別に考えなくても、僕がやっときますから⎦
⎡僕がやった方が、蔭山さんがやるより良い色に仕上るんだから、任せてください⎦
⎡ほぉ〜、そぉなの?⎦
⎡へぇ〜、そぉなんだぁ?⎦
⎡はぁ〜、そぉなんですかぁ?⎦
⎡偉いんだねぇ、凄いんだねぇ、自信あるんだねぇ⎦
⎡そこまで、ほざくんなら、万が一にもしくじらねぇだろうな!⎦
⎡あたりまえじゃないですか、僕を誰だと思ってんですか!⎦
何処の誰だか、よ〜く知ってるだけに心配なんだけど。
案の定、色確認をする訳でもなく、風合い見本の了解を得る訳でもなく、なしの礫で月日は流れる。
そうした末の今日である。
送られてきた箱には、蜜柑色のセーターが 梱包されていた。
ほぉ〜、納期は別にして、色は、まぁ、言うだけの出来であるにはある。
しかし、カシミヤにしては、妙に粗野な面構えをしている。
触ってみた。
なんだぁ〜、これ!
Shetland Wool じゃん。
表示を見てみた。
Shetland Wool 75% Cashmere 25% ってかぁ?
組合わせる相方の方がメインになっている。
また、よりにもよって、Cashmere の相方が Shetland Wool とは。
マシュマロと煎餅を同時に喰うようなもんである。
世にも奇妙な喰合わせの HAND KNIT SWEATER なのだ。
ほんとに、この男は恐ろしい。
是か?非か?
常識では、容易に判断できない。
天下御免のこの男に、是非を問うたところで。
⎡俺、ANSNAM の中野靖だけど、なんか文句でも?⎦
話は、まだ終わらない。
⎡ところで、High Neck だけじゃなくて、Crew Neck も発注したよねぇ⎦
⎡あぁ、それは、分納になってまして、僕が、家で縮絨加工してからになりますけど⎦
⎡分納って、家って、縮絨って、 そんなことやってたら年が明けるだろうがよぉ!⎦
⎡俺、ANSNAM の中野靖だけど、なんか文句でも?⎦

ほんとに、もういいから!

 

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