二百三十七話 偽りのない製品

Bologna から来日していた老舗編物業者に訊かれた事があった。
⎡ねぇ、日本って、カシミヤ山羊飼育してんの?⎦
⎡してねぇだろう、そんなもん⎦
⎡でまた、なんでそんなこと訊くの? ⎦
⎡昨日、取引先行ったら、弊社のカシミヤセーターの平均価格は三万円以下だって言われて⎦
⎡どこの取引先?⎦
⎡まぁ、大手の専門店だけどね、百貨店とか行くともっと安いらしいよ⎦
⎡だから俺、日本のどっかに山羊が沢山いて、そんでもって、安いんだろうって思った訳よ⎦
⎡日本は、世界で一番カシミヤ製品安く売られてんじゃないの?⎦
外国の同業者からよく聞く話のひとつにこういったものがあった。
嘘か真か、確かめた訳ではないので知らないけれど。
世界中のカシミヤ繊維の収穫生産高を、日本の消費量が上回っていると言いだす奴までいた。
達の悪い冗談だが。
市場原理上、あり得ない不思議が日本にはある。
数年前、ある問題が報じられた。
カシミヤ一〇〇%とか、カシミヤ混とか、表示された製品を検査した結果について。
表示された混率よりはるかに低い率でしかカシミヤが入っていなかったり、
そもそもカシミヤなんか一%も入っていなかったりと。
まぁ、食品の偽装と違って、腹は下さないだろうけど、ひとを小馬鹿にした話には違いない。
それも場末の衣料品店での話ではない、誰もが知っているセレクト・ショップが名を連ねている。
バイヤーも、表示を信用するしかなく、悪気はなかったのかもしれない。
でもね。
⎡表示を見なきゃ判別できないような製品は、カシミヤ素材の値打ちはない⎦
“繊維の宝石”と称されるカシミヤは、その風合いに於いて、他繊維原料より明確で、曖昧さはない。
ちゃんとした上質のカシミヤは、誰にだって判るはずだ。
大阪に、明治期創業の小規模だが名門と称されている紡績会社がある。
カシミヤ、キャメル等、高級素材開発では世界屈指の存在として知られる。
“ 深喜毛織株式会社 ”
世界最高のカシミヤの原産地は、シルクロードの時代から今も変らず内蒙古である。
その内蒙古での原料調達から、紡績、染色、織編、製品加工まで、一貫生産設備を有している。
徹底した品質管理能力は、もちろんだが、深喜毛織の魅力は、染色技術にあると思う。
原毛段階で用いられる高い染色技術は、最終製品での圧倒的な風合いをもたらす。
さらに、深喜毛織は、その特異な生産体制を駆使してコスト・カットにも乗出す。
そうして、産まれたのがこのセーターです。
驚くべき風合いと色感を纏った偽りのないカシミヤ・セーター。
08 Sircus と深喜毛織の共同製作により実現しました。
御値段も、税込み価格で四万円を下回ってます。
この価格なら、思い切った配色でもアリでしょ?
紡績会社に在籍していた頃に、よく言われた。

ちっとは、小さな巨人 “ 深喜 ” を見習え!

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