十五話 ANSNAM

先月、製作を依頼しているmods coatを確認するため東京に向かった。
先は、ansnam。
少し前に、浅草から千駄ヶ谷に移転した。
アトリエに着いて、早速、縫製見本をみる。
極めて難しい仕様になっている。
完成を一〇〇とすると六〇くらいの状態か。
とても、不安になる。
このデザイナー、中野靖という、
彼の仕事の途中経過は、出来る限り見ない方が良い。
あまりの発想の奇天烈さに、常人には、先行きが霧がかかったように見えない。
軽く目眩がするが、とりあえず尋ねてみる。
⎡中野君、これって、大丈夫?⎦
⎡何がですか?全然、大丈夫ですよ。⎦
手短かな返事が返ってくる。
どうやら、仕上がりを見通してるようだ。
極めて重要なアイテムだが、もう彼に任すしかない。
nakano world から抜け出て、駅へと向かう。
途中、正気を取り戻すためにも、珈琲を飲まなければ。
古いマンションの半地下に時々訪れる喫茶店がある。
Enseigne dangleという。
ここの雰囲気が大好きで、珈琲も素晴らしく旨い。
半地下故の日射しが僅かに届く薄暗い店内で、先程の一件を思い返してみる。
これから、あのコートはどうなっていくんだろう。
確か彼は、依頼した時言っていた。
⎡今回は、ミニマルな気分なんですよね。⎦
あの複雑で難解な仕様のどこが、ミニマルでシンプルなんだろうか。
わからない。
しかし、いつも最後はきっちり仕上げてくる。
ひょっとしたら、これが凡才と才人の違いかも知れない。
試作品は、七月二十日から始めるホーム・ページのnewsでご覧いただけます。
掲載は、二十二日あたりになると思いますが。

千駄ヶ谷 屋号:Enseigne dangle

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