十九話 鷹の爪

4年経つと、土が黒みを帯びて柔らかくなってきた。
少し掘ると、ミミズが顔を出す。
ここらで、プラスチック製の植木鉢やらペンキの剥げた藤棚を整える事にする。
出来るだけ母と共にあったものは残すつもりだが、この辺りはちょっといただけない。
まず、プラスチック製のものは捨てる。
代わりに木材でコンテナを作る事にした。
購入した板を断ち、木ネジで組み立て、ペンキを塗り、ステンシルを施す。
何の問題もない、気分良く作業は進む。
鼻歌混じりで、底板に穴を空けていた時、背中にイヤな視線を感じた。
振り向くと、嫁が狡猾そうな笑みを浮かべながら立っている。
⎡へぇ~。やるじゃんか。そんな事も出来るんだ。なら、他のものも作れるよね。⎦
それから、十五分間、やれプロ並みだの、やれ家でも建てれるだの、と褒めちぎる。
最近は道具が良いから等という台詞は、まちがっても吐かない。
基本、私は褒められて伸びる生き物に属している。
付き合って三十年以上、この生き物の生態を、嫁は知り尽くしている。
案の定、新たな仕事が舞い込んだ。
先の阪神大震災で傷んだ扉の修理。
写真を飾る棚。
物干台。
あげくに、箪笥。
⎡そこ狭いから、四枚扉の観音開きにしてよね。よく考えてお願いね。⎦
⎡あっ、ごめん。⎦
ここは謝るとこでもないし、仏壇を作ろうとしている訳でもない。
俺は、本当に馬鹿だ。
出来の悪い鷹のちっちゃな爪を、それでも慎重に目立たせず生きてきたのに。

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