三百二十二話 こんなもんで、誤摩化されないぞ! 中編 

三百二十一話 前編 からの続きで、Authentic Shoe & Co. での一幕です。
竹ヵ原君が、ダンベルや水筒に続いて、今度は、雨用具を見せるという。
肝心の靴はどうした?
そんな想いもあったが、久しぶりに顔を合わせたんだし、付合うことにする。
「これなんですけど」
「おっ、U.K. Oiled Jacket じゃん」
U.K. Oiled Jacket は、一八〇〇年代の終り頃に英国で産まれた。
以来、厳しい英国の風土のなかで、野外着として育ってきた Historical Wear である。
Royal Warrant の称号を持ち英国王室の方々も愛用されている Barbour に象徴される。
一九六四年 Days Trials Circuit で、 Steve McQueen が着用したのも、この U.K. Oiled Jacket だった。
こういった Historical Wear は、弄くるのが難しい。
下手にやると、元々の風情が損なわれ台無しになる。
大抵の場合がそうなって、オリジナルを越えることはまずない。
しかし、この U.K. Oiled Jacket は、どうだろう?
襟を全面的に取っ払らうことで、野暮ったさが拭われ、どこかモードな感じすら漂う。
竹ヶ原君らしい大胆なアプローチで、的を外していない。
数々の古典靴を、天性の着眼と手法で現代に蘇らせてきたある種の見識が窺える。
「ねっ、今日みたいな雨には良いでしょ?」
「うん、まぁ、雨の日じゃなくても良いけどね」
「っていうか、靴なんだけど 」
「それと、ほら、これも見てください 」
「ほらって、これ T-Shirt じゃん 」

グラフィック・デザイナー平林奈緒美さんが手掛けられたらしい。
foot the coacher 流 College T-Shirt で、他に ENGLAND 版と BELGIUM 版があって。
それぞれに謎のメッセージが載っている。
この内容については、明かしてはならないらしいけど、SWEDEN 版だけちょっと。
Sweden に、Joakim Lunde Blad という方がおられて、鮨職人を生業とされているのだそうだ。
この方は、ある世界記録を保持されている。
海苔巻きを、二分間に十二本巻くという驚いて良いのか悪いのか分からない記録だ。
と、こういう与太噺が連々と書かれてあるという。
「笑えるでしょ? でも、言っちゃ駄目ですよ、謎故に可笑しいんだから」
「言うなって言われれば言わないけど、積極的に披露するほど実のある話でもないと思うけど」
「ところで、ダンベルも水筒も雨合羽も海苔巻きも、それぞれに良いよ、それはわかった 」
「で、靴はどうなったんですかっていう話をしよう」

肝心の靴は、後編です。

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