三百五話 TYPHOON !!

八月四日に施餓鬼会、八月七日に初盆法要と一五日まで続いていく。
遠くから御参りに来てくれるひともいる。
せっかくなので泊まってもらって、ゆっくり飯でも食いながら話もしたい。
そのために古館の片付けを急いだようなもんだから。
まぁ、楽しいんだけど、仕事も休むわけにはいかないので、きついっちゃぁきつい。
そんな盆中日の一〇日、翌日の月曜日は、店も定休日。
この日は、御参りに来るひともなく、ちょっとゆっくり過ごせそうだと思っていた。
ところがぁ、まさかの TYHOON !!
強い台風十一号が、四国から瀬戸内海を渡って姫路辺りに再上陸するという。
姫路って、海辺の家と目と鼻の近さじゃん。
この地で生まれ育って、台風慣れした嫁に大丈夫か?と訊いても。
「 ぜ〜んぜん大丈夫、まったくもって OK ! 」
「いつも思うんだけど、あんたのその根拠のない自信って、どっから湧いてくるの?」
真に受けると碌なことがないので、車庫の木製扉をロープで縛る。
そして、水が流れて来そうな場所に煉瓦と土嚢を積み、庭の植木鉢を非難させ出勤した。
昼頃。
「窓から見える明石大橋がこんなことになってますけど、それでも大丈夫なんでしょうか? 」
「嘘ォ〜、マジでぇ〜、全然駄目じゃん 」
「でもウチは大丈夫、奴らを飼ってるから、いつだってちゃ〜んと守ってくれるんだから」
奴らとは、古館が建つずっとずっと昔から居る山桃の大木と姥桜のことである。
仕事を終えて晩方海辺の家に戻る。
屋内は、雨漏りも浸水もなく、水を含んだ雨戸が開きにくくなっている程度で大した不具合もない。
が、一夜明けて、朝庭に出てみると。
風で千切れた枝が庭中に散らばって、
ハーブは根っこから倒され、排水溝に落葉が詰まり水溜まりになっていて、もう、滅茶滅茶。
元通りにするには、今日一日費やさなければならないかも。
実際、朝七時頃から始めて、終えたのは晩の八時過ぎだった。
そんなでも、山桃と姥桜の大木は堂々と立っていて、海側から家を守るように覆っている。
嫁の言っていたことは真実なのかもしれない。
度々の台風や、地震から、齡六〇歳を越えたこの古館を庇護してきたのだろう。
お隣さんや電気屋のオヤジが、様子を見にやって来てくれた。
「どう? 大丈夫やったぁ?昨日は、ほんまに凄かったんよ 」
通りがかったどっかのババァまでが。
「大変やねぇ、庭も、なかったらなかったで寂しいし、あったらあったで大変やねぇ」

「いやいや、ウチは、こいつらの働きでもってるようなもんですから」

 

 


 

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